ヒールを脱いで深夜登山。

ひっそりと静まり返った石畳と通り。ここは東京でも随一の登山観光地として名をはせています。

休日の昼間ともなれば登山者数日本一のハイキングコースとして有名なこの場所は老若男女の人でごった返します。

しかし夜中ともなれば街灯が煩く光るばかりで人っ子一人見当たりません。日中とのギャップに驚くこと間違いなしです。

昔は近くの小中学校の生徒が校外学習にくるだけの山でした。しかし、今は初心者でも、都会に住む人でも簡単に登れる山として知れ渡り、人気はとどまることを知りません。ヒールでも登れる山なんていう謳い文句さえ。

こうやって、人が多く訪れるようになった風景を眺めながらも、静かだったこの通りを見たかったというわがままな自分も居るのです。だからこうして夜中にやってきたのでした。

近年モダンに作り替えられた最寄り駅。いかにも最近観光地として需要が高まってきた場所の田舎駅という風情です。昔の姿も見ていたはずですが…もうすっかり忘れてしまい思い出すことはできません。

登山口に向かう登り道も左手が白い壁で覆われて工事中でした。きっと数か月後には新たな施設が建設されていることでしょう。

夜中でも爛々とひかる照明の建物。ケーブルカーを運行する施設です。これこそがこの山を日本一の登山者数に押し上げた要因でもあります。普段は夕方で終電が出てしまいますが、夏の間だけは夜遅くまで運航しているのです。

ひっそり静まり返る山の中にしゃべり続ける自販機と運行アナウンス。立てかけられた誰かの虫取り網がこの真夏の霊山に登る需要の根源を示しています。

周辺のお土産屋さんもシャッターが閉まっています。

シャッターが閉まっていること自体珍しくもなんともなくなった時代。昼間に来なければこの閑散とした雰囲気が異様なものであるとは気づかないことでしょう。

ここにおかれている寺社はお寺なのになんで鳥居が残っているのか不思議ではありませんか?明治の神仏分離政策時、ここはお寺を選びました。ですが、その当時の名残として鳥居が残っているからなのです。

昼間は騒がしいメインストリートも今だけは昔の寺社としての静けさを取り戻しています。人さえいなければこうも静謐で厳かなのかとびっくりしたものです。

実は私はこの山の上で夏の間だけ開かれる飲食店にてアルバイトをしていた時期がありました。昔の話です。勤務の度に山をケーブルカーで上がり、アルバイト先に向かっていました。

かつて通っていた私が言うのだから間違いありません。それはこの山はヒールで訪れるにはあまりに無理があるであろうということと、ここの魅力を一番に感じることができるのは人っ子一人通らない、真夜中であるということです。