いつも一人旅をしていると時たま誰かと行く旅行はどんなものだったっけ?と忘れてしまうことがあります。修学旅行や家族旅行で経験しているはずなのに、一人旅の時の自由な時間に肩まで浸かっているとその喧騒や楽しさをとんと覚えていないのです。
そんな時に旅と旅行の違いについても考えることがあります。両者の違いは何なのか。1人の時は「旅」で誰かと行くのは「旅行」なのか。人数だけでそう簡単に決めてしまえるものでもない気もします。
もしも旅行の楽しさを忘れてしまったのなら取り戻したいし、一方で今ある旅の喜びを忘れずにいたい。
今回の旅は5泊6日の日程の中で旅程を共にする人数が目まぐるしく変わり、旅と旅行の違いは何かを考えた人間の文章であります。
公正なる投票で決められた旅先は大阪と奈良。言わずと知れた西の首都です。ハッキリ申し上げるならば奈良はともかく大阪という土地にあまりいい感情を抱いてはおりませんでした。行ったことないのにも関わらず、某サラ金漫画と下町ホルモン屋女児のアニメで偏見を抱き、治安が悪くて声が大きく、歩く人間はヤクザと虎柄おばちゃんの街だとばかり。
それらを払拭するためにも集合日時の前の日から前泊入りしてとある店にてお酒を呑んでおりました。これはなめろう。
銘柄が分かるほど堪能な訳ではありませんが、どれもこれも美味しい日本酒でした。
その日の宿は天王寺の「葆光荘」。大阪の騒がしい通りにありますが、それでも静かに佇む、しっとりとした雰囲気が特徴です。
この旅行の最初の夜を過ごすに相応しく、安寧の一人旅を提供してくれた宿でした。
朝食。朝からお鍋と天ぷらが出てきたのには仰天しました。しかもどちらも美味しい。
満足した気分で宿を後に。昨夜はあんなにもうるさかった通りが路上のゴミだけを残して静かです。これ以降は続々と友人たちと合流しつつ大阪観光を楽しむ予定です。
2日目の朝は夜行バスできた一人の友人と合流。ナポリタンが大好きな彼が下調べしてくれた喫茶店へ行きます。写真で見たナポリタンが美味しそうだったらしい。こういう喫茶店が街中にも多いのが大阪の特徴なのかもしれません。
結局料理の提供は行っておらず、二人してコーヒーを啜った訳ですが。そういう失敗もまた旅情なり、です。また別の話にはなりますが、彼の注文した「激ウマコーヒー」は本当に激ウマでした。
それからは集合場所である京橋の一棟貸し民泊まで歩いて向かうことにしました。私も彼も歩くのは好きなものですから、敢えて地図アプリを見ないで行ってみようということになりました。
歴史のありそうな建物がある地域をぶらぶら。
いつもは一人でする散策も話相手がいるのも楽しいものです。
大阪の一つの特徴だと思ったのが活気のある商店街です。東京ではどこか寂れている通りが少しは目にするものですがここにはそれがない。風土の違いを感じます。
一方、閑静な公園が整備されてもいる。これはたまたま歩いた場所がそうだっただけかもしれませんが。緩やかな川に船が巡航する風景というのはやはり東京にはないものです。
天気も良かったので寄り道。
偶然目に入った造幣博物館に行くことに。人数が少ない旅行だからこそできるフレキシブルな旅程です。初めて訪れる土地の地形を生かした造幣局の生い立ちと歴史が思いのほか面白くてつい長居をしてしまいました。
遠くに大阪城を見ゆ。目的地をだいぶ外れているようです。
昼食。一人なら即決できる店選びも二人だと時間がかかり煩わしいのが何とも楽しい。
それからは友人達皆と民泊で合流し、人数はついに8人へ。大所帯となって大阪の街をそぞろ歩きます。
言わずと知れた通天閣。いつもならこんな騒がしいとこには行く気も起きませんが、皆となら俄然やる気になって先頭を歩けます。
銀が泣いております。ボロボロになっても修理しないとことか、すぐ横にパーテーションすらない喫煙所があるところとか。いかにも大阪らしい。
今回のベストショットです。
お次はあべのハルカス。
無料で行ける高さまででも十分高くて楽しめる。それでも東京タワーやスカイツリーと比べてやっぱりあっちのほうが...と優位を保とうとしてしまうのが東京人の悲しい性であります。
大阪観光のガイドブックかのように夜は道頓堀へ。だって8人もいるのですから。無難な場所になるのも道理です。
それでもみんなでグリコの格好して写真を撮って。観光客になりきれる特権を持っているのは若い今だけなのだと思い知らされます。
極め付けは大阪城。コンビニで思い思いのお酒を買って夜桜鑑賞と洒落込みます。皆が350ml缶一本だけなのに私だけロング缶2本買っていたのはすぐにバレてしまいました。
昼はあんなにも歩けども遠かった大阪城がライトに照らされ、雄大に建っています。
なんでもないことがかけがえのないものだったと気づくのはきっと遠い未来のことなのでしょう。
西の都の夜景を見ながらほろ酔い気分で帰路に着いたのでした。いつもと違うのは8倍もの話相手がいる点です。
3日目は奈良。近鉄で40分は丁度良い観光地であります。
修学旅行以来ですが、子供の頃には分からなかった仏閣の良さや楽しみ方というものが身についています。それに皆が理系の人間なものですから、造形に深くない歴史的な観光は新鮮なみたい。
二月堂からの眺望も晴天で気持ちいい。
お昼は釜飯の店へ。これまた美味しい...
昔は建物なんか見て何が面白いのだろうという思いがありましたが、昔のものが改修や修理、保存を成して何百年も残っている姿は歳を重ねてからその凄さ分かりました。自分自身が年月を経ているからでしょうか。
そうなればいざ中高年、高齢者になったときはどれ程の感慨が得られるのか。今は想像だに尽きません。
先頭を歩く私の一存で、趣味の街並みへと向かう途中です。
大阪の人通りの多い場所よりはやりこのような道の方が好みです。
ならまちにある椿井市場。皆の無言の反対を押し切って私が来たかった場所であります。
半廃墟とも言える商店街はほとんどがシャッターを下ろしております。その中でも健気に店を営む料理店なんかの風情を見てもらいたかったのです。
皆に廃墟趣味を隠してはおりませんが、それなりに理解と感慨を得てもらえたようで。我儘を言った甲斐がありました。
宿泊地の屋上からは高層ビルと青い空と下世話なホテルが同居しているのが見えます。こんなにも早く帰って来たのは今日は外食せず皆で料理をするから。
あーでもないこーでもないと騒ぎながら作るメニューは餃子です。前々から餃子パーティをしたいという意見は一部であったのですが予定が合わずやらず仕舞いでした。この旅先の地においてついに実現したのも感慨無量です。
見た目は遠く店のものには及びませんが、山のカップ麺が美味しいのとか、キャンプで食べるカレーが格別であるのと同様にこの餃子もまた唯一無二の味です。ワイワイ後片付けをしつつ夜は更けていきました。
4日目は定番中の定番のテーマパーク。こちらも私一人ならば絶対来ないところです。それでも勧められて事前に試聴した映画のセットさながらの風景に恥ずかしながら興奮気味です。
テーマパークだからそこ昼から呑んでも許されますしね。
個人的に気に入ったのは配管工ゾーン。青春を費やしたと言っても過言ではないゲームの舞台まんまの風景を目の前に人混み嫌悪の気分も吹っ飛びました。
一杯のビールの効能か、それとも園内の熱気に当てられたのか。こうしてみると作られた風景や夜景というのも悪くないなと思えるのです。
一人で来ていたらその人の多さに辟易していたことでしょう。それをカバーする大人数の楽しさがあったのです。
5日目はこれこそ私の我儘で植物園。
観光でよくスポットとなる動物園や水族館とはまた違った良さを知って欲しかったからで。というのは建前で、単に私が行きたかっただけです。
それでもそれらに比べてるとマイナーな植物園温室の良さを改めて知って貰いたいという差し出がましい気持ちがありました。
全員が植物系の集団にいたからか、なんだかんだ楽しんでいたみたい。
それでいて反省点は皆のじっくりとした見学を遅いよと急かしてしまったことです。人には人のペースがあるというのに。自分が言い出したのにこの所業。後の旅程が押すことを危惧して雰囲気を壊してしまったことはこれからも一生忘れずに引きずることとなると思います。思い出しても申し訳無いことをしたと悔やまれます。
ここからは予定がある4人は帰宅し、まだまだ余裕とバイタリティがある4人に別れて旅が続きます。私を含む4人は折角ここまで来たのだからと近畿の南部、和歌山にレンタカーで向かいます。これは途中で見えたエセあべのハルカス。
4人のバイタリティは土砂降りの中でも碑を見に外に出て写真を撮る行為に滲み出ております。
果ては紀伊半島の東側まで。ここまでも私は全く運転をしていないことが申し訳なくなります。
紀伊勝浦駅前のbodai。これがとんでもない当たり店でした。運転がなければ確実にお酒が進んでいたことでしょう。
鯨の竜田揚げもたまらなく美味しい。
夜が遅くなってしまった商店街もまた風情があります。
3人が懸命にいい店を探してくれて、車の中ではウトウトしていた私が言うのも何ですが、自信をもってオススメする店でございます。
今宵の宿。男女1部屋でギュウギュウでも何も文句がないのがこのグループのいいところです。
翌朝。6日目も相変わらずの朝から土砂降り。それでも折角温泉地に来たのだからと雨に打たれながらの露天風呂は最高でした。
宿を出て、熊野本宮大社。
この雨の中でも傘をささないというのはバイタリティとはちょっと違う気が....
神社の静謐さは雰囲気は雨の中でこそ輝きます。
日本一の大鳥居。写真では分かりづらいてすが近づいて見上げたならば、その大きさは圧巻です。
道の駅那智に併設される本物の駅。レトロな佇まいがとてもいい。
人気のない駅は乗らずに眺めるだけでも楽しいのです。
道の駅那智。チェーン店ほど大衆的でなく、それでいて観光客でも入りやすくて地域の物産がズバリ手に入るのが道の駅の魅力です。
熊野那智大社へ。
雨上がりの雲は常緑の山々に見事に映えます。
石段を上り、
本殿へ。
帰りの石段もこれまたいかにも観光地らしくてとてもいい。
かの有名な大門坂。ここでもまた私の悪い急かし癖が出たのは不徳の致すところです。
那智の滝。雨が降った後だからか、いつもより水量が多いようです。
風景だけではなく、被写体がいるというのはいいですね。人の笑顔を撮る楽しみをようやく知ったところでもあります。
気になったフォント。
時間も限られております。最終目的地の白浜へ。ここまでも私は運転しておりません。本当に彼女達には頭が下がります。
白浜の浜辺。世の中にはタコの遊具マニアがいるそうですね。
美しい景観と仲の良い仲間。これ以上何を望むのでしょうか。
一人旅では決して撮ることのできない写真。こんなふざけた写真が撮れるのも今だけ。
いつまでも浜辺では靴を脱ぎ捨てられる仲間でありたいと思いました。
モラトリアムの終焉とも言える5泊6日の中で1人の楽しみも悲しみも。大人数の賑やかも煩わしさも、そして急かしてしまった反省も。全てを体験できた旅路です。浜辺を出発してすっかり疲れ果てた飛行機内では1つの思考について考えていました。
旅は寂しさや静けさや穏やかさを楽しむもの。旅行は楽しさや賑やかさや興奮を楽しむもののような気がします。1人の時では風の吹くまま独断で旅程を決め、静かで落ち着きのある旅路は、大人数になったからこそ感想や意見を言い合い、ワイワイと賑やかなものになりました。それこそが旅と旅行の違いではないでしょうか。「旅」を「行う」と書いて「旅行」。1人では小さな旅でもそれが人数として集まることで別の感覚が生まれることを知りました。
旅路の殆どを私の独断と我儘で組んでしまった「旅」を、7人の仲間が「旅行」として楽しんでくれたことを祈るばかりです。