濡れた温泉街道をまた征く。

いつかの日に来た温泉街道。今回は二輪車を捨て、電車でえっちらおっちら来てみました。

この日はなんだか台風が近づき天気が悪くなりそうとの予報があったので、いつもなら跨っている相棒には乗らず、鉄道で。とはいうものの夏の空はカラッとした晴天です。

ここに来るまでに折角電車なのだから乗ろうと思っていた特急も運転を取り止めて、鈍行でとろとろ。ボックス席から次第に山深くなる車窓を眺めながら参りました。

駅前の風景。前に来た時とあんまり変わらないなぁと最初は思いましたが古いモノが次第に消えていき、新しいモノが興る様はこれからたらふく見ることになるとはこの時は思っておりませんでした。

先ずはこの先の温泉街に予約を取ったホテルに荷物を置きに行こうと20分程かけて汗だくになりながら歩きます。以前来たときは湯煙を上げていた日帰り温泉施設が閉業しているのを横目に。

この温泉街の入り口が廃墟の群れであることは以前と同じ。取り壊して更地にする訳でもなく、新しく温泉施設としてリニューアルするわけでもない。山間の湿気にさらされるがまま、残っていました。

川沿いに並ぶ背の高い建物たち。山の温泉地にやってきたという意識が高まります。

温泉街のメインの通りに入ります。元旅館や元民宿が並びます。

前と変わらない、寂れた雰囲気。この情緒が味わいたくて繁忙期の最中でも予約を取ったのですが。そんな期間でも道路は人っ子一人通りません。

ここが街一番の歓楽街でしょう。歓楽街とはいっても居酒屋があるわけでも夜までやってる店があるわけでもなく、ただ営業している建物が多いというだけのことです。それにしても前来た時よりあまりにひっそりしすぎている気が。

今宵の宿です。出来た当時はモダンだったであろう渡り廊下の派手なテント屋根は奇抜な装飾として風景から浮いています。

どうやらここに来るまでにかなり雨が降ったみたい。プラスチックの椅子は排水の為斜めに立て掛けられ、橋に生える苔は水分を保っています。二輪車で来なくてよかったと思い玄関に入ります。

セルフのチェックイン(という名の受付に誰も居ないだけ)を済ませ中に入ります。飾られた写真やカーテンを下ろした売店が昔は繁盛していた名残を残しています。

お部屋。床置きのクーラーが歴史を物語っていました。広縁から眺められる川辺は在りし日の繁栄を思い起こさせます。

ちょっと旅館内を探検…と思いましたがすぐに辞めました。どうやらこの地域では大き目なホテルの建屋の半分はもう客室としては使っていない様子。

なんだかスタッフオンリーの扉の先に入っているような気がして気まずくて。誰にとがめられるわけでもないですけれどもお部屋に戻るとします。

昔はこの客室を満室にするだけのお客さんがきたのでしょうか。ちらりと見た名簿や靴箱の数からすると今日の宿泊者は10組程度です。

気を取り直し駅前のお蕎麦屋さんに向かいます。飲食店はそこしかないようなので先ほど来た道をまた汗だくになりながら歩きます。

お盆休業で閉店でした...。中で人の気配はすれどやってないことに変わりはありません。駅前と言えど辺りには飲食店は無し。どうしたものかと途方もなくぷらぷら歩いていました。

そうそう、前来た時もアニメの聖地になったとかでグッズやポスターが並んでいたんでしたっけ。仕方のないことを思い出しても腹の足しにはなりません。線路の向こう側に向かいます。

なんだか新しめのモダンな温泉施設。前に来た時にはこんなものはなかったはず。恐る恐る覗いてみるとレストランの利用もできるみたいです。

運転ができないという不便さを払拭する、運転をしなくていいという利点を存分に満喫しながらお腹を満たします。

この施設にも某アニメの影響が…。製薬会社がスポンサーなのでしょうか。

施設から出ると辺りはほんのり薄暗く、青白くなっていました。

二輪車もさることながら、今回は一眼も持ってきておりません。薄い板の貧弱なカメラで撮った写真ばかりです。ですから今回の文章に付随する写真は全てスマホで撮った写真です。

そうはいっても人並みの記録は出来るし、こんな静かな町にはフレキシブルな振る舞いで挑むのがいいのかもしれないと思って二輪もカメラも置いて赴いたのは事実です。

暑い…。レストランで冷えた体は日が落ちてきたといえども夏の熱気に晒されてあっというまに温度が上がります。

相棒に乗ればものの3分で到着するとこを20分もかけて歩いている。暑さや疲労で不快になりながらもなんだか割り切れた気持ちでいたのも不思議でした。

お風呂に入ってひっそりと外に出ます。また入れるからいいやと夕暮れ時の残暑に諦めの感情を抱きつつ、辺りを散策してみることにしました。

以前にも歩いたことのある街でここも通った道ですが、何も変わっていません。あの時のまま、静かに寂れているだけでした。

当時もこの鳥居の前で写真を撮ったんだった。この街の裏の顔ともいえる間口に静かにうっとりしてしまいます。

そうはいっても数年前と変化しているのは確かで。

あの時は営業していた民宿の前に売物件の看板が設置されていたり、気になっていた旅館の玄関には数多の封筒が散らばっていたり。

いつまでもこの情緒が味わえるわけではないのです。次来た時には温泉街ですらなくなっているかもしれないという薄々気づいていた感情にトドメを刺されました。

決してサービスや施設が良いとは言えないこのホテルもいつまであることか。私自身はこの状況を楽しんでおりますが、世間一般の人に受け入れられるかと聞かれたら絶対にハイとは言えません。

翌日。夜中に雨が降ったようなアスファルトはしっとりと濡れ、この街らしいしめやかさをたたえていました。おかげで初めて来てからの湿度の街という雰囲気がぬぐえません。

行きに見かけた元飲食店の民家。その時は上裸のおじいさんが玄関前(ほぼ道路)で何やら作業をしていましたが今はどこぞの訪問サービスと思われる車が止まり、その運転手らしき人と玄関内で話をしていました。通りすがりざまチラリとみた風景です。

いつもと変わったことがしてみたくてちょっと違う装いで再訪した今回の街でしたが。そのままでいて欲しいと願いながらもやっぱり少しずつ変わってきているみたいで。それがいい方向に向かっているのか悪い方向に衰退してるのかは帰宅した今でも分からないままです。