鈍き黒鉄無色の白煙。

雪降る日。たしかどこかの神社の参拝のついでだった気がします。知らない街に来て、次の電車の時間まで暇だったので辺りをぐるっと回ってみようかという思いで歩き出した時のことでした。そこそこ積もった雪の中、思うように進まないキャリーバッグを引きずりながら進んでいた道の片隅で、車輪を止めた機関車に出会いました。

歩くダウンの中の胴体だけが異様に熱く、手足はキンキンに冷え切った最中。公園に設置されているかの如く佇んでいる風貌ですが保存というよりかは放置に近いようで。明らかに路線の通らぬ小高い丘にぽつんと立っています。

黒きボディと白い雲空に良く似合う、ハトのエンブレムかシンボルか。技術の高い落書きなのか記念として残された印なのか雪中行軍の最中の人間の思考には判断がつかず、推測することしかできません。

こうしたかつて動いていたであろうものに対する同情や憐れみのような気持ちが沸くのはいったい何故なのかと考えながら眺めていました。顔のついた機関車アニメの影響や車という車がヘッドライトのせいで顔に見えてしまうのというのも少なからずある気がしますが、単に打ち捨てられた廃棄物以上の想像を掻き立てるものがそれらにはあります。

錆付き冷え切った鉄と鉄が打ち付けているのを見ていると、静寂の中でも音が聞こえてきそうで。得体の知れない巨体をかれこれ1時間ぐらい傍にいたり車体に触ってみたりしていました。

通りすがりの撮影者にこの重い車体を再び動かすことなどできるわけはなく、ただ在りし日を思うだけです。白煙を上げるのはそれを見ている人間の口からのみでありました。