昼なお暗けれどアーケード。

お店に入らなくても、黒猫のように歩くだけでも楽しめるアーケード散策。あまり人に話しても魅力が伝わらない隠れた魅力があります。

とはいうものの、派手な看板が並ぶが地元密着の商店街や扉の奥から歌声や紫煙が漂うバー通りは場違いなような気がして歩きにくいものです。それらの持つディープな良さを感じるにはそこを歩くしかないというのに。

ですからアーケード街を歩こうと決めたときは大抵朝や昼に歩くのです。すれ違う男の人にジロリをと見られることもなく、右往左往している不審者とも思われることもない。それでも一夜明けてさっきまであった喧騒と昂りの残り香を嗅げるからです。

だから真昼の最中に突如現れたこのアーケードには少々驚きました。人っこ一人居なく、まるで深夜の寂れた通りのように出現したのですから。

営業している雰囲気は皆無ですが生活の跡はそこかしこに。さっきまで通行人が居たかのようで柔軟剤の匂いが鼻を掠めました。

前のめりになった看板や古びたショーケースは間違いなくここが小売店だったことを示します。

まだまだ日の高い時間ですが屋根に囲まれたアーケード内の光といえば天井の採光と妖しく光る緑の誘導灯のみ。

幼稚園や住宅が並ぶアスファルトからふい、と通りに入っただけで夜の帳が降りる。その不思議な感覚をなんと言い表せばいいのか分かりません。

明るいシャッターの向こう側からは今なお園児の声と自転車の漕ぐ音が聞こえてくるのに今立っている場所は深夜にホテルから抜け出して歩くあの静かなアーケードさながらなのですから。

あっという間に行き止まり。短い短いアーケードでした。この先も続いているのかもしれませんが、この先を確かめる術はありません。

夜の通りを朝に歩くいつもとは真逆の体験。晴天の真っ昼間からいきなり日光が遮られる視覚。床を踏みしめる感覚から夢ではないと自覚しつつも、不思議な場所が見れて満足し、日の当たる場所へ引き返そうと思いました。