一献が甘口辛口為す文化。

一口にお酒といっても好みは様々。まずはビール、やっぱりワイン、南の人間ならば焼酎…人によっては目がない物やちょっと苦手なお酒もあることでしょう(私も焼酎が飲めません)。その中でもお米から作られる日本酒というものは大好きな人と苦手な人の差が激しいように感じます。

ここは新潟県。言わずと知れたコメどころです。お米の産地、関東以北には多くの酒造がありますが、中でもここは酒造としての工場の機能と日本酒の文化を保存、発信する交流所の機能の二つを兼ね備えた施設として目を見張るものがあります。

もしもあなたが日本酒がお嫌いなら。飲まされるわけではないですから食わず嫌いをせずにこの施設を見に行ってみてください。仮に飲めないままでも大丈夫です。あなたの飲めない日本酒がどのように作られてどのように活きてきたか知るだけでも日本酒を楽しむことができるのですから。

入口からして大きな門。酒蔵としての風格とモダンな雰囲気が見事に両立しています。

酒蔵であることを示す杉玉。日本酒の仕込みと同調して緑から茶色に変化していくそう。なんとも粋な飾りです。

敷地の端には四季折々の草木が楽しめる枯山水の庭があります。なぜ枯山水なのか、という理由も聞けたことで人々が持つジンクスといいますか、日本人特有の「縁起」のようなものを感じられました。ただの庭ではなく蘊蓄が聞ける庭なんてものは面白いものです。

工場内部へ。工場見学というと大規模なラインで次から次へと流れてくる製品を眺めるというのが一般的です。

しかし、日本酒の酒造の現場はそうもいきません。年によって変わるお米の出来や温度や湿度で製品はがらりと変わります。機械の手が介入するスキマはあまりなく、仕込みの大半が人の手で行われるからです。

ですから工場内部もメカメカしい機械が並んでいるというよりかはこじんまりとした木造の道具やタンクが主です。

それというのも日本酒造りというのは削って精米したお米を蒸して麹をかけて…こんなお勉強をこのブログでするにはあまりに野暮ですね。

ですがあなたもこの地に足を運んでその工程を間近にすればお勉強などとは少しも思わないはずです。米から作る酒の文化というものを感じられること間違いなしです。

この酒蔵で特筆すべきは生原酒を缶で売りだしたこと。生原酒というのは日本酒の工程の一つである火入れと加水をしないもの。あまりに革新的だったため、当時の社長は周りの酒造から頭がおかしくなったのかとまで言われたそうです。

それでもそれらの工程を省いた商品は大ヒットを記録しました。先進的な考えとそれを可能にした缶入りの販売がこの酒造をここまで導いたのです。

銀のタンクの奥に今でも木の桶が置かれる工場は現代の技術革新と古くからの伝統が息づく様をありありと体現しています。

工程の一つになぞらえたネーミング。なんとも「粋」じゃないですか。

一介の施設としては膨大な書庫量。日本酒に関わる書物だけでなく、それにかかわる文化、歴史、風土...様々な本が保存されています。

だからこそ「文化研究所」なのでしょう。己の分野だけでなくそこに関連する事象を含めてこその「文化」です。

見学時間では背表紙を見ることしかできませんでしたが、あまりに惜しい。一か月位貸し切って読みふけっていたいものです。

勿論活字から得られる情報だけではありません。展示された文化財レベルの品々は、酒という魔の水がもたらす効能が日本の歴史を表立って、時には陰ながら牽引してきたことを示しています。

そういったものをひとまとめに見られる施設として最高の場所です。日本酒の文化を知るには何よりわかりやすいことでしょう。ちょうど、私が訪れた時も金髪の外国人一行が、興味ありげに、展示をのぞき込んでいらっしゃいました。グローバルな世界です。

揺らすと雅な音が鳴る徳利や、欲張って注ぎすぎると全部下から漏れてしまうお猪口…日本人の気持ちに根底にある言い表せない感情が酒器となって体現しています。

日本人の主食であるコメをわざわざ削って作る日本酒。考えによってはもったいないことかもしれませんがそれによってでしか得られない甘さや辛さがあると思うと、不思議な感じが致します。

そんな言い表すことのできない味覚を日本酒を飲むことが好きな人もそうでない人も、「文化」として楽しむことができる良い場所でした。

無理にとは言いませんが、楽しむことができたなら。お酒は様々ですからまずは一口。