某県の山中にある温泉地。雨に濡れた寂し気な空気に誘われ、ふらりと立ち寄ったのでした。
放棄された温泉施設や、明らかに手の入っていない空き家がズラリ。集落入口付近の建物からしてあまり活気のある場所ではなさそう。あたりにしめやかな雰囲気が漂います。
日の入りが近くなり営業を終了した日帰り温泉施設の廃湯でしょうか。湯煙が立ち上り桜の花を霞ませてゆきます。
温泉地の中心街ともいえる場所。ひときわ大きな旅館が目の前に広がります。旅館の川の上の渡り廊下愛好会とかありそうですよね。私も渡り廊下好きです。でも昨今の流行り病のせいか、人っ子一人通りません。
建物と建物の隙間を参道とする神社。ひとたび鳥居をくぐればどこかに迷い込んでしまいそうな気さえします。
神隠しにあったとしてもおかしくない。
参道を進むと灯りを消したかのように薄暗くなってきました。雨に濡れた階段が奥へ奥へと誘っています。
こういう温泉地の路地裏はどうしてこうも魅力的で、後に帰れなくなってしまう危険性を忘れさせてしまうほど歩みを先に進ませるのでしょう。このまま進んだら迷子になるかもしれない、という感情が歩いている中でいつのまにか消えてしまう作用があります。
一つ一つの旅館が縦に複雑な構造をしており、それらがひしめきあっています。見上げればそのミルフィーユの虜です。
大通りに帰ってきたころには辺りはすっかり暗く、そろそろ帰らなければならないと不安になる時間帯でした。
さっき見た渡り廊下。暗く水の見えない川の流れのドウドウという音が得体も知れず不安にさせるのです。
街灯をヌラヌラと反射するアスファルト。誰もすれ違わない。あたりの旅館を覗いてもロビーが皆薄暗い。ここの温泉旅館は全部こんな廃れた雰囲気なのだろうか、と悲しくなって来てしまいました。
川沿いに立つ建物に灯る明かりの美しさと寂しさが早く帰ろうという気持ちをなお急かせてきます。
集落入口のお土産屋。コンビニさながら入れば入店音が鳴るけれど、誰も出てきてくれません。結局何も買えずにすっかり暗くなった温泉地を後にしたのでした。